STORY

01 はじまりは『明日へ』

「明日へ 戦争は罪悪である 」主演の中原丈雄さん
左が松本ふみかさん

株式会社和ら美の代表取締役である藤 嘉行が、2017年に監督した映画『明日へ~戦争は罪悪である~』。その上映会が鹿追町で行われたのは、2019年2月のことでした。

それまで鹿追町とは縁もゆかりもなく、十勝を訪れたことすらなかった藤ですが、出演者の松本ふみかさんが鹿追町への山村留学を経験していたこと、また本作でラインプロデューサーを務めた須永裕之(株式会社和ら美 取締役)が鹿追町出身という偶然が重なり、鹿追町での上映会が実現したのです。

上映会には藤と松本さんに加え、主演の中原丈雄さんも駆け付けてくれました。会場となった鹿追町民ホールの600席が、観客で溢れかえりました。町役場では会場から遠い地区の町民のために送迎バスまで運行して上映会をサポート。山村留学卒業生の“里帰り”を、ここまで温かく迎えてくれる町の方々に、藤が胸を打たれたのは言うまでもありません。

「鹿追で映画を撮ってよ」

上映会の打ち上げで声をかけられた藤。軽い冗談のようなやりとりですが、町民の熱烈な歓迎ぶりだけでなく、鹿追町の景色の美しさにも感動を覚えた藤にとって、それは社交辞令とは思えませんでした。

「この町でなら、いい映画が撮れるかもしれない」

それから1年後の2020年2月、藤は町所有の住宅を借りて片足を鹿追町に移し、首都圏との2拠点生活を始めます。

02 鹿追町で暮らす

映画制作を念頭に置きつつも具体的な企画は何もなく、まずは鹿追町を知ることからというのが藤らしいところ。

藤の鹿追町での暮らしは、新聞配達から始まりました。新聞店の方に頼んで配達に同行させてもらい、土地勘を掴んでいったのです。道中で見かける景色は、地元の方には当たり前でも、藤の目にはとても新鮮に映り、特に朝焼けの美しさは格別でした。

山村留学の成り立ちを聞いたり、舞台になりそうな場所をロケハンしたりしながら、脚本づくりに取り掛かる藤。映画製作へ向けて順調な滑り出しに見えましたが、ここで新型コロナウィルスという災難に見舞われます。

「いま思えば、じっくり準備ができたのは良かった」

性急にビジネスとして進めるのではなく、表立ったアクションが起こせない状況だからこそ、藤はじっくり腰を据えて脚本を練り、並行して地元の方々との信頼構築にも励みました。

顔見知りから仲良くなり、徐々に信頼してくれる人が増えてきた2021年7月、鹿追町に本店を置く株式会社 和ら美を設立します。

「この町で本気で映画を撮る」

外から来た自分を信頼してくれる人たちに、本気で応えたいという思いからの会社設立。最初は半信半疑だった人にも本気度が伝わったことで、映画に協力したいと言ってくれる人の輪が更に広がっていきました。それが結実し2022年4月、映画撮影を支援する町民組織「ささえ隊」が設立されました。

03 「ささえ隊」

夏ロケ(クランクイン)
冬ロケ(クランクアップ)

「ささえ隊」の設立と前後して『おしゃべりな写真館』の脚本が完成。紆余曲折したものの、結局は藤の実体験をベースに、自身を投影するような「ちょっと疲れた初老の男性が再生する物語」となりました。そこには鹿追町で暮らしたからこそ生まれたリアリティがあり、山村留学のことや、鹿追町に移住してきた主人公が新聞配達に取り組む姿も盛り込みました。

主演はもちろん中原丈雄さん、共演には橋爪功さんと賀来千香子さん。藤が信頼を寄せる名優たちが、二つ返事で快諾してくれました。ヒロインには、本作が映画デビューとなる山木雪羽那さん。他にも小宮孝泰さん、なすびさんなど個性派たちが脇を固めてくれました。また、町内でオーディションを行い、子役の配役も決定。その中には実際の山村留学生もいました。

赤い屋根が印象的な写真館の建物は、実際に町内に“新築”されました。地主さんから土地を提供いただき、「ささえ隊」の隊長を務める建設会社の社長が陣頭指揮を執り建築してくれたのです。また、同社の倉庫内にはスタジオセットまで組んでいただきました。

クラインクインは、2022年7月の夏ロケから。撮影スタッフの宿舎には町の所有する複数の住宅を貸していただき、部屋の備品や家具・家電は「ささえ隊」の皆様から持ち寄っていただいたもの。そして、撮影中の食事は「ささえ隊」を中心に町内の各団体の皆様から地元食材を使用した炊き出しをご用意いただき、その美味しさにキャストやスタッフは感激しきり。まさに官民挙げたご支援により、夏ロケを順調かつ楽しく終えることができました。

「鹿追町の美しい四季の中で、人間ドラマを描きたい」

そんな思いから、撮影は季節を越えて続きます。10月に秋ロケを行い、翌2023年2月の冬ロケでクランクアップを迎えましたが、町長はじめ役場職員の皆さん、「ささえ隊」を中心とした有志の皆さんには絶えずご支援いただきました。また、エキストラや写真撮影などを含めると延べ約500名もの町民にご協力いただきました。

04 完成披露から全国公開へ

鹿追町での完成披露上映会
シネマ太陽帯広での舞台挨拶

2023年12月、映画『おしゃべりな写真館』がついに完成し、町民の皆さんに初めてお披露目しました。

もう5年近くも前になる『明日へ』上映会以来の熱気に包まれる鹿追町民ホール。しかし、あの時と大きく違うのは、皆さんが上映作品を“自分たちの映画”だと思って観ていることでした。

顔見知りがこんなにも多く登場する映画は、きっと驚きだったでしょう。また、見慣れた風景も、スクリーンに映し出されると新鮮で、その美しさに初めて気づかされた方も多かったようです。

「この町は、こんなに素晴らしかったんだ」

多くの方が笑顔でそう口にし、涙している方も。そんな皆さんの様子を見て胸を撫でおろす藤に、「映画で町が一つになれた」と感謝の言葉を言ってくれる方もいました。

「この映画を撮って良かった」

大きな手応えを感じながらも、だからこそもっと多くの方にこの映画を届けて鹿追町の素晴らしさを知ってもらわなければ、と決意を新たにしました。

2024年2月23日から、全道に先駆けてシネマ太陽帯広での上映がスタート。初日から満員の回が続出し、鹿追町から足を延ばしてくれる方の姿も多く見られました。4週間の上映で観客動員は約5千人を記録しました。

3月29日から北海道先行公開として、札幌、小樽、江別、旭川、釧路、北見、苫小牧で上映。観客動員がついに1万人を突破します。また、夏から秋にかけて映画祭や上映会など、全道各地で多くの方にご覧いただきました。

いよいよ10月11日から待望の全国公開。東京、大阪など11都市に鹿追町の素晴らしさをお届けしました。また、道内では函館や稚内でも公開。その後、帯広での凱旋再上映や浦河町の映画館でも上映されました。

映画館での公開後も十勝を中心に上映会が開催されており、全道179市町村での上映を目指して、上映を希望する方からの問い合わせを受け付けています。

05 そして、鹿追の明日へ

映画の製作、そして公開がひと段落した2025年初頭。鹿追町で記録的な大雪も経験した藤は、ある決断をします。それは、丸5年間に及ぶ2拠点生活を終了し“完全移住”すること。

「この町で、やらなきゃいけないことが増えた」

映画を通して生まれた、町民の皆さんとの絆。
さまざまな課題を抱える鹿追町に対して、もっと貢献できるという思い。
自分の残りの人生。
責任と覚悟。

「鹿追の明日へ よーい アクション」

藤の思いに共感するシルバー世代によるベンチャー企業、株式会社和ら美の第2章が幕を開けました。